大豆ミート市場が広がっています。健康、動物福祉の観点に加え、最近は、地球環境への配慮から大豆ミートを嗜好する人も増えているようです。メニューのバラエティも増えており、味も料理の仕方によっては、畜産由来の肉と区別がつかないくらい良くなっています。今後は、年率20%程度で市場が拡大すると予測されていますが、そのくらいの伸びは期待できるでしょう。
サステナビリティの観点から気になるのは、大豆ミート市場が拡大すると、大豆栽培のための森林破壊が加速するのではないか、ということですが、畜産由来の食肉からの代替がうまく進めば、当面は問題なさそうです。
牛だけでも10億頭が飼育されている畜産は、世界の温室効果ガスの14%を占めるとされる気候変動への影響が注目されていますが、それ以外にも、水の過剰利用、水質・大気汚染、土地利用、穀物の大量使用など、様々な課題が指摘されています。土地利用に関しては、畜産は世界の陸地の26%を利用しているとされています。また、穀物の大量使用については、大豆生産の90%が畜産向けの穀物として使用されています。大豆ミードの需要が増えても、穀物用大豆を大豆ミートにシフトする、畜産用の土地を大豆生産に利用するということが出来れば、新たな土地開発、生態系破壊にはつながりません。
大豆ミートは、従来から食べている大豆を使用しており、見た目や使用される料理も従来の食肉と大きく変わらないことから、消費者としても受け入れやすく、市場は順調に拡大していくでしょう。
一方で、その他の代替たんぱくとして期待される培養肉、昆虫食などについては、消費者が抵抗感もあり、市場が広がるには、時間がかかるでしょう。
この消費者が持つなじみのない食品に抵抗感を持つことを「フードネオフォビア」と言います。フードにネオ(新しい)、フォビア(恐怖症)を組み合わせた言葉です。今後、多様な代替たんぱく市場が広がっていくには、フードネオフォビアの克服が課題となります。
フードネオフォビア克服の方法として有効とされているのが、情報の提供です。どういう素材を使って、どう加工しているのか、それを食べる意味合いは何か、食べた人の評判はどうかなどの情報を提供することで、「未知のもの」という感覚が薄れ、抵抗感がなくなっていきます。
また、女性、若者、教育レベルの高い人などが、フォードネオフォビア傾向が低く、新しい食品を受け入れやすいという調査結果があります。こうしたセグメントをまず攻めることも有効かも知れません。
「カリフォルニアロールの原則」の活用も有効だと思います。カリフォルニアロールの原則は、新しいものを提供するときに、新しいものと馴染みのある何かを組み合わせて、「新しいけど馴染みのあるもの、身近なもの」と感じてもらうようにするものです。
カリフォルニアロールは、この原則にもとづいて発明されました。米国で寿司が提供され始めたのは、1960年代ですが、最初は、寿司という新しいものに寄り付く人は、いませんでした。ステーキにマッシュポテトを添えた夕食が一般的な中で、外食で生の魚を食べるという発想は、危険なものにすら思われていました。馴染みがなかったのです。
寿司がなかなか米国で受け入れられない中、ロスアンゼルスの寿司職人が、寿司を身近に感じてもらうためのアイデアとして、「馴染みのない食材とキュウリやカニやアボガドといった見慣れた食材を組み合わせたらどうなるだろう?」と考えました。さらに、外側に米が見えて内側に海苔のある「裏巻き」のほうが、米国人にとっては身近に感じられることにも気が付きました。そして、カリフォルニアロールが生まれ、寿司人気に火が付きました。
大豆ミート市場は広がっていますが、それ以外の代替たんぱく市場開拓に挑む人は、「カリフォルニアロールの原則」を含む、フードネオフォビアの克服方法を研究すべきでしょう。
Comments