top of page
検索
takehikomizukami

持続可能な社会に向けて資本主義システムをどう変えていくか。-利潤動機の転換とハイブリッドシステムの構築

資本主義システムの構造変化が求められている


資本主義は、良くできたシステムだ。人々の寿命が延び、人口が増え、様々な社会課題が解決され、豊かさが広く行き渡るといった人類社会の発展をもたらしている。


資本主義の特徴は、私有財産、利潤動機、市場経済などにあるとされる。私有財産を認め、私有財産に価格を付けて商品化し、お金儲けを必要なものとして動機付けし、市場での取引を増やすことを通じて経済的な豊かさを広げようとするシステムだ。経済的豊かさが社会問題を解決し人々に幸せをもたらすという思想がその背景にある。このシステムが企業という組織間の競争を通じて経済を成長させる形に進化し、様々なイノベーションを生み出している。


最近、この資本主義システムを見直すべきという議論が広まっている。良い社会を築くために経済的豊かさを追求しているはずが、経済成長が自己目的化している。成長のプレッシャーのもと利潤動機が強く働き過ぎ、新たな商品、価格競争力のある商品を生み出すために世界中から資源を採掘、森林を伐採し、廃棄物は処理せず環境を破壊し、労働力を搾取し人権侵害や格差を生み出している。エネルギー効率の良い化石資源を大量に使って温室効果ガスを大量に排出している。こんなシステムは持続可能ではないというのだ。資本主義を見直し脱成長や定常経済を目指そう、コミュニズムにこそ未来があるなど、さまざまな考えが提示されている。しかしながら、現実的には、人類の進歩を促進してきた資本主義の優れた点は活かしていかなければならず、資本主義をどう見直すか、進化させるかという議論にもとづく動きが進んでいくだろう。


その中には、炭素や生態系に高い価格を付ければ、資本主義のメカニズムが環境問題を解決するといった考えもあり、これはこれで進んでいくだろう。しかし、こうしたやり方は対症療法的で、資本主義が抱える構造的な問題解決にはつながらないだろう。


資本主義システムの構造的変化を促すには、私有財産、利潤動機、市場経済といったシステムの根幹部分を変えていくか、資本主義システムと他のシステムのハイブリッド構造をつくっていく必要があるのではないか。


「利潤動機」を転換する


資本主義の根幹のうち、変えていく必要があるのは「利潤動機」ではないか。特に、影響力の大きい企業の利潤動機を転換していくことが必要ではないか。


ミルトン・フリードマン氏が「企業経営者の使命は株主価値の最大化であり、それ以外の社会的責任を引き受ける傾向が強まることほど、自由社会にとって危険なことはない」と言い切り、新自由主義のパラダイムが主流化してからは、企業が利益を追求する姿勢が強まり、さまざまな弊害を引き起こしている。これを修正していこうとするのが、昨今の「サステナビリティ経営」「パーパス経営」だ。本質的なサステナビリティ経営を主流化していく必要がある。


本質的なサステナビリティ経営においては、①パーパスを掲げ浸透させる、②自社事業・バリューチェーンが社会・環境課題におよぼす正負の影響を理解してマテリアリティを特定する、③マテリアリティにもとづき戦略を策定しKPI/目標を設定してマネジメントすることが基本だ。


ここでの企業活動の主たる動機は、「パーパスにもとづき社会に価値を生み出すこと」だ。利益はあくまでパーパスにもとづく価値創造を継続・スケールしていくための手段であり、サブの動機だ。これを機能させるためには、全社員がパーパスにもとづき判断し行動するよう、正しい知識と行動原理を社内に浸透させる必要がある。


本質的なサステナビリティ経営を進めて行こうという動きとしては、B Corpムーブメントなどがあるが、こちらはまだスケールする認証企業は少なく影響力は小さい。ESGの潮流もあるが、結局如何に企業価値を上げるかが主たる目的となっており、本質的なサステナビリティ経営を促進する流れになっていない。インパクト投資なども、スモールスケールな一時的なものにとどまる可能性がある。


サステナビリティ・リーダーとして長く君臨し、サステナビリティ経営の成功例としてもてはやされたユニリーバは、ポール・ポールマン氏退任のあとは、市場から厳しい評価を受けている。同じく長くサステナビリティ・リーダーと認知されるパタゴニアは、特殊ケースとみられがちだ。現在の利益、企業価値重視のパラダイムの中で、本質的なサステナビリティ経営を進めていくのは容易ではない。


しかし、「社会に価値を生み出すこと」を企業活動の主たる動機とすべきという考えは広まっていると思うし、そうした企業をつくりたい、そうした企業に勤めたいと思う人が増えているとは感じる。本質的なサステナビリティ経営はどうあるべきか、知識を広げ、実践例を増やしていく。それを促進する政策や資金提供などの環境を整備することを着実かつ継続的に進めていくしかない。それが少しずつ「利潤動機」を変質させ、「社会価値創造動機」が新しい資本主義のドライバーとなっていくだろう。社会課題を解決することが賞賛され、それが人間の欲望を刺激して持続可能な社会に向けたイノベーションを生み出していくようになるだろう。


資本主義システムと他のシステムのハイブリッド構造をつくる


資本主義と他のシステムのハイブリッド構造というと大仰だが、社会の進歩を促進する資本主義に、資本や財産の共有により平等な社会を目指すコミュニズムなどが持つ良い側面を加えていく。まず考えられるのは、環境について共有領域を増やしていくこと、地域において分かち合いの精神や分かち合う生活を維持・強化していくことだ。


環境について共有領域を増やしていくことは、すでに議論されている。2022年に生物多様性条約締約国会議で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2030年までの目標として、陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする「30by30」を掲げた。環境省ではこれを受けて、国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)の設定・管理を進めることとしている。OECMは、バードサンクチュアリなど民間団体が管理している場所に加えて企業の森などを想定しており、厳密には共有領域ではないが、生物多様性保全という「共有目的を持って管理する領域」として設定する。「共有目的を持って管理する領域」なども含めて、実質的共有領域を増やしていくことは、環境問題の解決に貢献するだろう。


宇沢弘文氏が提唱した社会的共通資本も共有領域を増やしていく考え方だ。宇沢氏は、自然環境に加え、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの「社会的インフラストラクチャー」、教育、医療、司法、金融、文化などの「制度資本」を社会的共通資本としている。


一方で、地域における分かち合いの精神や生活の維持・強化は、社会問題の解決に貢献する。現在の資本主義のもとではお金があれば大概のことはできるが、逆にお金がないと生きていけない。これが問題だ。お金がなくても生きていけるよう、一定程度衣食住などのベーシックヒューマンニーズを分かち合えるコミュニティを維持することが必要ではないか。地域の生活に質的な豊かさを感じられるのは、コミュニティに分かち合いの精神や生活が根付いているからだ。


こうした考えは、里山資本主義にも通じる。提唱者の藻谷氏は、里山資本主義を「お金が乏しくなっても水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、いわば安心安全のネットワークを、あらかじめ用意しておこうという実践」と述べている。地域において、お金がなくても生きていけるシステムを資本主義と共存するサブシステムのような形で構築する。そうした取り組みを強化していくべきだ。


「利よりも善を選ぶ」時代が到来している


1930年にケインズは述べている。「みんなが豊かになる時代はさして遠くないという結論を得た。そうなれば、人は、『ふたたび手段よりも目的を高く評価し、利よりも善を選ぶ』だろう。だが、ご用心あれ。まだその時は到来していない。あと少なくとも100年間は、いいは悪いで悪いはいいと、自分にも人にもいい聞かせなければならない。悪いことこそ役に立つからだ。貪欲と高利と警戒心とを、まだしばらくの間われわれの神としなければならない。」


それからもうすぐ100年。「利よりも善を選ぶ」時代が到来している。個人的には、資本主義システムの変革に向けて、サステナビリティコンサルタントとして本質的なサステナビリティ経営を推進していきたい。そして、故郷の富山県氷見市で、共有意識を持つコミュニティを育てていきたいと考えている。


閲覧数:85回0件のコメント

最新記事

すべて表示

サーキュラーエコノミー時代に注目すべき「成長する製品」というコンセプト

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2025年1月号に「「成長する製品」を戦略的に開発する法」という記事が載っています。「リバース・イノベーション」などを提唱した戦略とイノベーションに関する世界的権威であるビジャイ・ゴビンダラジャン氏などによる記事です。...

食用コオロギベンチャー「グラリス」破産は、昆虫食に対する消費者の心理的抵抗の大きさを示した。しかし、飼料用などからはじめて、長期的視点で頑張って欲しい。

食用コオロギの生産や商品開発に取り組んできた、徳島大学発のベンチャー企業「グリラス」破産手続きを申し立てました。無印良品と共同開発した「コオロギせんべい」が話題を呼ぶなど、一時期は事業が軌道に乗っているように見えました。しかし、2022年に徳島県内の高校から依頼を受け、給食...

Kommentare


bottom of page