現在多くの企業のサステナビリティ部門は、TCFDの対応に追われています。気候変動は、企業経営に大きなインパクトをもたらすイシューであり、その長期的影響を把握し、備え、そのことを投資家などへ開示することが求められています。
TCFDもそうですが、サステナビリティの世界では、海外の専門家が中心となって作成するグローバルスタンダードがある日黒船のようにやってきて、日本企業はその対応に追われるという構図が基本となってしまっています。
そして、次の黒船と目されているのが、「タクソノミー」です。タクソノミーは、もともとは生物学の用語で、分類学を意味しますが、今回新たな黒船になりそうなタクソノミーは、EUが進めているサステナビリティに貢献する活動の分類学です。
EUタクソノミーは、EUにおけるサステナビリティ投資を促進する政策の中心にあり、投資対象としてどのような活動がサステナビリティに貢献するのかを定義するものです。しかし、その影響はEUを超えて、投資の世界を超えて広がる可能性が十分にあります。
欧州委員会は、タクソノミーに関して、昨年、各国の国内法なしに直接効力を有する規則となる法案を提出しており、欧州議会を通過しています。今後、欧州連合理事会の承認を得て、成立する見込みです。
タクソノミーの法案においては、タクソノミーが前提とする環境目的として、1.気候変動の緩和、2.気候変動の適応、3.水及び海洋資源の持続可能な利用と保全、4.サーキュラーエコノミーへの転換、廃棄物の防止、リサイクル、5.汚染防止と管理、6.健全な生態系の保護の6つを挙げています。
また、特定の活動がタクソノミーと認められる条件として、①1つまたはそれ以上の環境目的に大きく貢献すること、②他の環境目的に重大な害を与えないこと、③最低限の社会的なセーフガード措置に準拠していること、④欧州委員会が定める基準に準拠していること、を挙げています。
上記のうち、②は、気候変動の緩和に貢献しても、健全な生態系の保護に悪影響を与えるものは、サステナブルな活動とは認めないということです。また、③では、ILO原則、OECD多国籍企業ガイドライン、国連人権指導原則などの遵守が求められており、環境面で貢献していても人権への対応が不十分なものは、サステナブルな活動とは認めないということです。
④の基準については、欧州委員会の設置した専門家グループが議論しており、今年6月にテクニカルレポートを発表しています。テクニカルレポートでは、環境目的ごとに、産業、産業ごとの活動、活動に関する具体的な判定基準が示されています。例えば、気候変動の緩和という環境目的に貢献する産業として「輸送」があり、「輸送」の活動として「乗用車及び商用車(による輸送)」があり、具体的な判定基準として、電気自動車、水素自動車、燃料電池車などの「排気管のない車」であるか、「排気管のある車」の場合は、CO2排出量が2025年までは50gCO2/km以下、2026年以降は0gCO2/kmでなければならないとされています。
このようにタクソノミーでは、かなり具体的な内容が示されます。これが、グローバルスタンダードとして大きな影響力を持つようになる可能性があります。これまでのように黒船が来てから慌てて対応するということのないようにしておく必要があります。
では、企業としてどう準備するか。日本企業では、環境配慮製品、SDGs貢献製品など、自社の製品・サービスを認定する制度を持っているところがあります。これをタクソノミーに合わせてみではどうでしょうか。タクソノミーの理解促進にもなりますし、将来の黒船来航の備えにもなります。こうした制度のない企業では、新たに導入を検討しても良いでしょう。何事も準備が大切です。
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