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社会課題を解決するイノベーションを生み出し、マーケティングでその市場を創造する。イノベーションとマーケティングは、社会課題解決ビジネス(CSV)においても基本的機能と言える。

takehikomizukami

ドラッカー曰く、「企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は2つの、そして2つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。」


この言葉の意図は、「企業の役割は、イノベーションで新たな価値を生み出し、マーケティングでその市場を創り広げること」と理解している。


CSVで言えば、製品・サービスのCSVで社会課題を解決する新たなイノベーションを生み出し、ビジネスエコシステムのCSVでその市場を創ることになる。この製品・サービスのCSVとビジネスエコシステムのCSVの組み合わせにより社会課題を解決する新たな製品・サービスの市場を創造することは極めて重要だ。


製品・サービスのCSVおよびビジネスエコシステムのCSV、さらにはバリューチェーンのCSVを統合的に推進している企業として、テトラパックを紹介する。


テトラパックは、スウェーデンに本社を置く、常温長期保存が可能な食品・飲料用紙容器の充填包装システムを世界中に展開する企業だ。日本でも、乳業や飲料企業に供給した容器システムは、年間数十億個の容器を生産している。


テトラパックは、「容器はそれにかかるコスト以上のメリットを社会に還元しなくてはならない」という創業者の言葉を行動指針として事業を推進しており、その紙容器は、環境面で優れる製品・サービスのCSVとなっている。


例えば、ガラス容器とテトラパックの紙容器を比較した場合、廃棄や輸送に関わる環境負荷は、紙容器のほうが圧倒的に小さくなる。ガラス容器で輸送する場合、重量の半分が瓶だが、テトラパックなら容器重量は、わずか数%となる。また、円柱形の瓶に比べ、角柱形テトラパックは、輸送時にスペースを無駄にせずに済む。さらには、テトラパックは、冷蔵せずに新鮮な状態を長時間保つことができるため、低温流通を行う必要がなく、冷蔵に関わる環境負荷も削減できる。


その紙容器のバリューチェーンは、非常にユニークだ。テトラパックは、顧客に紙容器の充填包装システムを提供する際に、食品加工と包装の専門チームを派遣し、顧客の工場の操業状態を検証、工場への製品の出入りや流れ、製造目標、輸送スケジュール、障害や機器の故障の原因、廃棄率などを詳細に調査し、無駄を排除する最適なシステムの導入を勧める。また、導入にあたっては、専門家による顧客企業の社員の訓練、継続的なモニタリングと必要に応じたグレードアップなどを提供する。こうした環境面でもムダのないプロセス構築を通じて顧客との関係を強化することは、バリューチェーンのCSVと言える。


また、テトラパックは、新市場の展開において、ビジネスエコシステムのCSVも展開している。テトラパックは、容器パックの用途として最も重要なものの一つである牛乳の需要をつくり出すため、世界各国で、政府機関、NPO、地元の乳業・酪農業者と連携して、学校給食プログラムを展開している。このプログラムにより、各国で「牛乳を飲む世代」をつくり出し、各国児童の栄養状態の改善に貢献するとともに、テトラパックと顧客のビジネスを切り拓いている。


例えば、中国では、子供たちに学校で牛乳を飲ませる利点を栄養学的視点から家族や教師に指導しているほか、「乳製品学校」などで酪農家を教育し、中国で生産される原乳の品質を向上させるなどの活動をしている。


なお、学校給食プログラムは、途上国において、児童の栄養状態の改善に加え、現地で製品を製造するサプライチェーンを築くことにより、地元の雇用を創造し、地元経済の活性化にも貢献している。


テトラパックは、プラスチック問題が顕在化してからは、プラスチック問題に配慮した容器パックの開発に力を入れている。プラスチックのキャップ付きの製品については、キャップをサトウキビなど植物由来の材料のものにし、容易に取り外せてリサイクルしやすいものにした。また、フィルム部分も植物由来のものとし、紙については、FSC認証を受けたペーパーボードを使用している。さらに、顧客が容器パックを環境に配慮したものに変更しやすいよう、既存の充填システムをそのまま活用できるようにしている。


テトラパックは、こうした環境に配慮した製品開発と合わせて、顧客や消費者に環境問題を啓発するキャンペーンを行っている。“Moving To The Front”と呼ばれるキャンペーンでは、ホワイトペーパーを発行したり、持続可能な原材料調達を啓発するプロモーションビデオを作成している。


テトラパックは、このように、製品・サービス、バリューチェーン、ビジネスエコシステムのCSVを組み合わせて、環境面で優れる自社製品の市場を創造している。特に、環境に配慮した製品の開発と需要創造のCSVの組み合わせは、多くの企業で検討すべきものだろう。

 
 
 

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