日本企業では、非財務と財務の相関関係や因果関係を可視化するのが流行っているようだ。非財務指標と企業価値の相関関係を統計学的に分析する、非財務活動と企業価値との因果関係(の粗い仮説)をロジックツリーのような形で構造化するなどの取組みが行われている。
個人的には、こうした取り組みが何故流行るのか十分理解できていない。
企業価値の構成要素として重要な株価は、企業の将来的な利益創出の期待を反映しており、優れた技術、人財(人財のパフォーマンスを発揮させる組織能力)、ブランドなどがあれば高まるだろう。無形資産や非財務資本が企業価値を高めるうえで極めて重要であることは間違いない。
非財務資本に関連する研究開発、人財確保・育成、ブランディングなどが重要ということは、投資家にも経営者にも当然のこととして受け入れられている。これらに対する費用の使い方が適切でないとして見直す、業績悪化のため短期的にコストカットするなどはあっても、こうした無形資産が重要であるということは当たり前に共有されている。企業価値との相関関係や因果関係をわざわざコストをかけて可視化しようなどという動きは、聞いたことがなかった。
最近の非財務と財務の関係性を可視化する動きでは、GHG排出削減、ダイバーシティといったサステナビリティの取組みと企業価値との関係性を可視化しようとするものも見られる。
ここで良く分からないのは、GHG排出削減を企業価値向上のために行っているような企業がいるのか?ということだ。もしそのような企業が多いとすると、パリ協定の目標実現は遠い夢となる。
確かにGHG排出削減が企業価値につながるのが理想だし、そのように市場や経済を変化させていく必要がある。そのために政策的に排出量取引などの仕組みを導入しようとしている。GHG多排出企業などについては、GHG排出を長期的に削減していく取組みが、企業の持続可能性を高めるとして市場に評価されるかもしれない。
しかし、基本的にはGHG排出削減は、世界共通の課題である気候変動に対応するため、世界が合意したパリ協定の実現に企業として責任を果たすために実施するものだ。それを戦略的・効果的に実施する必要はあるが、企業価値を高めるために実施するものではない。
先進的な企業は、GHG排出削減、カーボンニュートラルという責任を果たすことを前提に、それを企業価値と両立していけるよう、政府のルールメイクを促進したり、顧客にGHG排出削減の費用を転嫁できる市場を創造したりしている。
それに対して、日本企業は受け身というか、「GHG排出は企業価値につながるのか?」というような経営者がいるのか、「GHG排出が企業価値につながることを可視化しましょう」というコンサルの言葉を真に受けているのか、能動的に市場を変化させるというのではなく、現状を肯定することに注力しているように見える。これでは、グローバル先進企業などに比べて、サステナビリティの取組みが遅れる一方だろう。
非財務と財務の関係性を示すのであれば、ルールメイクや市場創造の観点も含めて、こういう形でサステナビリティの取組みを企業価値につなげていきたいという戦略や目指す市場ビジョンの構造を示すのが良いのではないか。目指す非財務、財務の関係性の構造を可視化して、それに向けた取り組みやKPIをその構造の中で示して進捗管理を行っていくのが良いのではないか。
非財務と財務との関係性を可視化する場合、それを何のために行っているか、何に使うかを考えるべきだ。現在の取組を肯定しようとして使うのはお勧めしない。戦略や将来ビジョンの納得性を高め、それを実現するために使うべきだ。
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