食用コオロギの生産や商品開発に取り組んできた、徳島大学発のベンチャー企業「グリラス」破産手続きを申し立てました。無印良品と共同開発した「コオロギせんべい」が話題を呼ぶなど、一時期は事業が軌道に乗っているように見えました。しかし、2022年に徳島県内の高校から依頼を受け、給食用の食材として粉末コオロギを提供したことが、「グリラスは子どもに無理やりコオロギを食べさせた」といった誤った情報がネット上で独り歩きして炎上しました。それが原因で、コンビニや大手スーパーなどとの取引がストップし、経営に打撃を受けました。
コオロギ食については、私も何度がブログで取り上げています。2015年のブログでは、牛肉生産の水消費や温室効果ガス排出の問題に言及したあと、以下のように書いています。
「世界的には、動物たんぱく質の原料として最近注目されているものに、「コオロギ」があります。コオロギは、100グラム当たり21グラムのたんぱく質を含み、牛肉や粉ミルクの26グラムと比べても遜色ありません。飼育に必要な飼料は、牛の体重を1グラム増やすのに8グラムが必要ですが、昆虫の場合は2グラム程度で、必要な水分も少なく、食物廃棄物などを簡単にエサにすることが出来ます。また、飼育に必要な期間も、数年が必要な牛に対して、コオロギは1ヶ月ほどで成長します。さらに言えば、イスラム教でもコオロギは食べても良い昆虫であるということです。
この新しい食材としてのコオロギの可能性に着目する起業家などが増えており、コオロギの飼育方法、コオロギの調理方法などが研究されています。すでに、米国では、コオロギが含まれる栄養補助食品やプロテインバーなどが登場しており、高タンパク・ビタミン・食物繊維・ミネラルが豊富で、栄養価が高い上、摂取した栄養の40%を体質量に変換ということで、ダイエットや筋トレをしている人を中心に人気となっているということです。ニューヨークでは、コオロギバーガーも販売され、人気となっているようです。
今後、コオロギを本格的に普及させようとした場合、最大の課題は、「人々の意識」でしょう。コオロギを食べることには、最初はほとんどの人が抵抗感を持つでしょう。しかし、
触ることを考えると、タコなどよりもコオロギのほうが、抵抗感がないのではないかと思いますので、コオロギを食べる習慣が広がるには、意外に時間がかからない可能性もあります。最近の例では、ミドリムシは食材としても受け入れられています。社会的課題に対応するために人々の意識を変えるマーケティングもCSVの重要要素です。CSV視点でコオロギビジネスにチャレンジする企業が、日本でも増えても良いのではないかと思います。」
上記のように書いていましたが、「人々の意識」の問題は想像以上だったということでしょう。グラリスの炎上問題のあとには、以下のように書いています。
「今回の騒動で、昆虫食に対する心理的抵抗、「フードネオフォビア」は非常に大きいことが示されました。一方で、昆虫食に対する関心が高まったことは、普及の機会にもなりえます。ネガティブな意見が多い状況ではありますが、一部の方でも関心を持ち、試してみようかと思うようになれば、市場が広がるきっかけになる可能性もあります。
昆虫食にはやはり抵抗があるという方でも、これを機会に食料システムの気候変動への影響に関心を持つようになり、週1回肉食を控えるミートフリーマンデーでもやってみようかという人が出てくれば、気候変動対策の観点からは、望ましい流れとなります。
しかしながら、ネガティブな意見が大半を占める中、昆虫食推進の立場の人たちが、コミュニケーションを間違えると、日本の昆虫食の歩みが一時ストップしてしまうリスクもあります。
昆虫食を推進されている方々は、今回の反応を真摯に受け止め、ファクトベースで、透明性を持ってコミュニケーションし、自分たちの考えや思いをしっかり伝える必要があるでしょう。」
これも甘い認識でした。物価高の影響もあり、抵抗感の小さい代替たんぱくである大豆ミートの需要も伸び悩んでいます。昆虫食が広がる環境にはないということでしょう。
しかしながら、長期的なたんぱく質に対する需要増加への対応を考えれば、昆虫食へのチャレンジは必要ではないかと考えます。その点、グリラス社長の渡邉さんの以下の言葉は頼もしく、頑張って欲しいと思います。
「すべては私の実力不足ですが、グリラスに起きたことには納得していません。今は一度撤退しますが、次こそは炎上に負けないビジネスモデルを構築します。まずは家畜やペット用のコオロギ商品で会社の経済的基盤を確立して、2050年ごろまでに人向けの食品も流通させたいと思っています」
「われわれのミッションは、食糧危機が来るまでに、昆虫食への抵抗がない人を増やしておくことです。タンパク質需要の一部がコオロギに流れれば、牛・豚・鶏肉の価格高騰は抑えられる。よく、『コオロギは食糧危機が来てから食べればいい』と言われますが、食べたくないものを食べざるを得ないのは、不幸な昆虫食の未来です。私も当初は虫を食べることに抵抗がありましたが、そういう人たちが『おいしいから』と気軽にコオロギを手に取るようになれば、食の自由が保障された未来を作れるはずです」
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